Monday, February 12, 2018

暮らしのデザイナーの伝記物語



沢良子『ふつうをつくる――暮らしのデザイナー 桑澤洋子の物語』(美術出版社)
小さいがキラリと光る好著だ。戦後の高度成長期に庶民の服装や制服をデザインした桑沢洋子(1910~1977)の伝記物語である。
洋子は1930年代、女子美術大学を卒業後、新建築工芸学院で建築・美術・デザインの分野の人々に出会い、雑誌記者として活躍した。交流したのは、橋本徹郎、田村茂、名取洋之助、土門拳、亀倉雄策、高松甚二郎、高橋錦吉といった錚々たる名。「主婦感覚」を活かした台所の設計に始まり、「生活の新様式」に挑む。
1947年には洋裁教育に乗り出し、多摩川洋裁学院に始まり、バウハウスの教育に学びながら1954年、桑沢デザイン研究所を創設。橋本徹郎、佐藤忠良、朝倉摂、金子至、高松太郎らとデザイン教育を本格化させた。1964年の東京オリンピックにはデザインで「参加」した。勝見勝、亀倉雄策、そして洋子。1966年、東京造形大学を設立し、学長に就任。その人生とデザイン思想、デザイン教育をコンパクトにまとめている。文章は読みやすいし、素人にもわかりやすい。
本書の何よりも重要な貢献は、1954年にバウハウスの創立者グロピウスが来日し、桑沢デザイン研究所を訪問した時の記録(アルバム)を発掘したことだ。グロピウスがアルバムに残した文章、勝見勝と剣持勇の書き込み。その存在は関係者に語り継がれてきたが、紛失したと考えられていた。四半世紀も前に私は「紛失した」という話を聞かされた。そのアルバムを著者が発見し、本書(145頁)に写真を掲載している。
バウハウスの教育方法と理念を継承し、ニューバウハウスとウルム造形大学にも学んできた桑沢デザイン研究所と東京造形大学にとって最重要の歴史的記録である。その発見は関係者にとって重要なエピソードというにとどまらず、日本のデザイン史及びデザイン教育史にとっても重要だろう。