Monday, May 01, 2017

大江健三郎を読み直す(80)アイロニーの作家

大江健三郎・すばる編集部編『大江健三郎・再発見』(集英社、2001年)
はしがきとして、大江「小説家自身による広告」、書き下ろしエッセイとして、大江「小説の恣意和世界に私を探す試み」。座談会として、「大江健三郎の文学」(大江、井上ひさし、小森陽一)、シンポジウムとして「ノスタルジーの多義性」(大江、アンドレ・シガノス、フィリップ・フォレスト)、資料として「読むための大江健三郎年譜」(篠原茂)、「作品案内」(榎本正樹)が収録されている。当時までの大江文学への最良の入門書となっている。小説としては『取り替え子』までが扱われている。
大江はエッセイのみならず、小説においても一貫して「自己引用」「自己言及」に励んできたので、その都度の時点での大江世界への入り口案内をしてきたが、本書はより積極的に大江文学案内を提示している。井上ひさしらとの座談会は楽しく読める。「読むための年譜」もていねいに仕上げてある。
大江自身が「アイロニーの作家」と自己規定している点と、大江の全体小説について井上ひさしが「星座小説」と呼んでいる点が面白い。座談会の締めの言葉は、井上ひさしが「大江さんは一たん消えて、次に女性の和解作家のふりをして大衆小説を書いていく」と言うのを受けて、大江が「希望を与えられる夢ですが、やはり消えて行く時はひっそりと、そして完全に消えることにさせてください(笑)」。井上ひさしが先に逝った後、大江はどのようにして「消える」のだろうか。