Friday, December 02, 2016

ヘイト・スピーチ研究文献(77)成嶋隆への反論

前田 朗「ヘイト・スピーチ法研究の探訪」内田博文先生古稀祝賀論文集『刑事法と歴史的価値とその交錯』(法律文化社、2016年)
近代刑法史研究の第一人者であり、九州大学副学長としてハンセン氏病患者に対する差別、人権侵害、そして救済措置に関する詳細な報告書をまとめあげた内田先生の古稀祝賀論文集に書かせていただいた。
昨年出した『ヘイト・スピーチ法研究序説』(以下『序説』)以後の課題を整理し直す作業中である。ヘイトの本質と現象形態をさらに解明すること。ヘイトの被害の法的把握をさらに進めること。日本国憲法に基づいたヘイト・スピーチ処罰の当然性を強く打ち出すこと。世界のヘイト・スピーチ法の制定状況と適用状況をさらに詳しく紹介すること。
本稿前半では、獨協大学教授・憲法学者の成嶋隆の論文に応答した。成嶋は『獨協法学』92・93号掲載の論文で私の見解を批判している。そこで成嶋の主張を受け止め、さらに議論を進めることにした。いくつかの論点があるが、成嶋の批判点は、ヘイト・クライムとヘイト・スピーチに関する前田の定義が不明確だという趣旨である。この批判は当たっており、私の定義はなお不十分と思われる。しかし、成嶋の定義はもっと不明確であり、混乱している。成嶋論文の方法論そのものに疑問がある。さらなる議論が必要だ。
本稿後半では、人種差別撤廃委員会84会期に提出された各国政府の報告書の中から、条約4条に関する部分を紹介した。ベルギー、ホンデュラス、カザフスタン、ルクセンブルク、モンテネグロ、ポーランド、スイス、ウズベキスタンである。
ヘイト・スピーチ刑事規制に消極的な憲法学者に対する批判として、『序説』では、奥平康弘や内野正幸を取り上げて若干の疑問を提示する方法をとった。その後、塚田啓之の議論への疑問も提示した。

しかし、これまで憲法学者への本格的な反論はしてこなかった。それよりもヘイト・スピーチ刑事規制の憲法論的根拠を整理し、提示することが重要だった。それは『序説』でいちおう提示した。そこで今後は憲法学者への反論を試みることにしたい。成嶋は早くに私への批判をしてくれたので、今回、応答した。