Monday, October 03, 2016

ヘイト・スピーチ研究文献(70)川崎支部決定の評釈

上田健介「ヘイトデモ禁止仮処分命令事件」『法学教室』433号(2016年10月)
「判例セレクト」というコーナーの、本年6月2日の川崎ヘイトデモに関する横浜地裁川崎支部決定に関する短い評釈である。
ヘイト・スピーチ解消法は理念法にとどまるが、「しかし、司法判断を行う際の解釈指針となることが意図されており、司法がこれに応えるかたちとなった」という。
続いて著者は「もっとも、本決定には、違法性の強い差別的言動が表現の自由の保護領域に含まれないとするのは行き過ぎではないか、権利保有者を(差別的言動解消法と同じく)適法に居住する者に限定するのは妥当か、といった点で疑問があり、更なる議論が必要であろう」とする。憲法学者としては当然指摘しておかなくてはならないことであろうが、「さらなる議論」の中身を書いていない。
他方、興味深いのは、著者が最後に次のように書いていることである。
「反復的に行われた言動の将来に向けての差止めがそもそも事前抑制にあたるのかも検討する必要があると思われる。」

これは私の主張に近い。私は、川崎ヘイトデモ禁止仮処分は事前規制ではなく、事後規制であるから、規制できると主張してきた。理由の第1は、同様のヘイトデモがそれ以前に繰り返し行われたこと、第2に、インターネット上でヘイトデモ予告がなされたために被害がすでに生じていること、である。これまで、残念ながら、私の主張に賛成意見を見ることはできなかった。
ところが、著者は、私の第1の理由と同じ理由から「事前抑制にあたるのか」と疑問を提示している。さらに詰めるべき重要論点だ。