Saturday, September 10, 2016

ヘイト・スピーチ研究文献(67)「ヘイト本」を考える

岩下結「ヘイトスピーチと『表現の自由』」『出版ニュース』2422号(2016年)

岩下は「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会(BLAR)」メンバーで、本稿は7月29日に出版労連会議室で行われたシンポジウムの報告である。BLARは、2014年3月に活動をはじめ、『NOヘイト!出版の製造者責任を考える』(ころから)を出版している。
岩下は、ヘイト本を批判する立場と、「表現の自由」を守る立場のすれ違いを、「リベラリズムをいかに捉えるかという問題」と把握する。リベラリズムにおける寛容論や「思想の自由市場論」が「ヘイトスピーチに関しては逆方向に機能する」。しかし、そこでいう「自由な言論」には前提がある。「自由な言論の場は、それに参加する個人の対等性と、内容に基づく公平な評価と言う原則のもとに成立するということだ」。この前提のないところに「自由な言論」を持ち込むのは適切と言えるのか。これが基本的な問いである。マジョリティの専横を「自由な言論」と呼ぶ倒錯が生まれる。それゆえ、岩下は「ヘイトスピーチを放置し続けることは、メディア産業にとっても自殺行為である」という。